合併症
合併症

HIV感染

血液製剤を用いて治療を行っている患者は、血液によって運ばれるウィルスや汚染物質の感染にさらされる可能性がある。

1970年代後期から1980年代中ごろまで、血友病患者の何人かが血液製剤を通してHIVに感染し、これらの人々の多くがエイズ (AIDS) を発症した。 エイズは、感染患者を持つ家族や、血友病患者のコミュニティ(患者会)に健康的、経済的、倫理的そして感情的に大きな負担を強いた。

米国では1985年から、ウィルスに対する新しい診断法や、殺菌法が確立され、より安全な製剤を供給できるようになった。 日本でも同時期に輸入認可がなされたが、それまでの非加熱製剤が回収されず、HIV被害を大きくする一因となった。

現在では、血液製剤に対するウィルスの不活性化(殺す)により、第8,第9因子血液製剤によるHIV感染は起こっていない。
製剤の不活性化として、加熱処理、清浄溶剤、モノクローナル洗浄などが行われている。これらの進歩を以下で詳細に説明する。

肝炎

肝炎は、肝臓が傷ついているか、あるいは肝炎ウィルスに感染している時に起こる肝臓の炎症である。 それは自覚症状の無い状態から、突然生命の危険に達する可能性がある。 徴候としては疲労感、吐き気、嘔吐、筋肉と関節の痛み、肝臓の肥大や体重の減少などがある。

肝炎はアルコールやドラッグ、化学薬品、ウィルス、その他の組み合わせ等、肝臓にダメージを与える物質によって引き起こされる。
ウイルスによって発症した肝炎はウイルス性肝炎と呼ばれ、血液製剤を通して感染する可能性がある。
現在、A,B,C,D,E,G型肝炎を起こす6種類のウィルスが知られており、肝炎の95%は A,B,C型であり、他の型は希である。

今日の血液製剤は、凝固因子にまだ若干の肝炎感染の危険性があるが、過去の製剤よりはずっと安全である。
血液提供者が肝炎患者かどうかの検査に対する信頼性が高まった他、新しいウィルス不活性化技術が血液製剤に対して使用されており、肝炎ウィルスに感染する確率はかなり小さくなっている。

米国では1997年以来、この新しい製法で作られた血液製剤によるC型肝炎の感染報告はない。 B,D型肝炎ウィルスはこれと同じ製法により排除される。 また、血液製剤によるE型肝炎感染の報告は今のところない。

但し、幾人かの血友病患者が、おそらく血液製剤を通してG型肝炎に感染したと報告されている。
A型肝炎は現在使用されているウィルス殺菌法に対し抵抗力を持っているため、血液製剤中にその存在が発見されている。
血友病患者にとって、血漿から作られる製剤に対してはA型肝炎感染の危険にさらされている。
これに対応するため、米国では全ての血友病患者は、A型肝炎ワクチンの接種を受けている。

今日の血液製剤に対する安全策は、大いに進歩はしているが、完璧とは言えない。
血液全体と、赤血球、血漿、血小板を含めた血液構成要素は現在のウィルス殺菌法を使うことが出来ない。 なぜなら、それは重要な血液要素に損害を与え非活性化してしまうため、血液製剤としての用をなさなくなってしまうからである。
最近の調査では、B型肝炎感染の危険性が1/50,000であるのに対し、C型肝炎感染の危険性は1/1,000以下である。 用心として、血友病患者に対しA型,B型肝炎に対するワクチンの接種を奨める。 また、年に1度C型肝炎の検査を受けるべきである。C型肝炎に対するワクチンは今のところない。

先のページでも触れたが、2007年に日本においても、一切の動物由来の血漿を用いない、完全な遺伝子組み換えの凝血因子も認可されている。論理的にはウィルスの感染は全く無くなる事になる。
しかし、遺伝子組み換えで製造されたものが長期間体内に輸注された場合、どのような問題を引き起こすか分からない、といった慎重な意見も存在する。

関節障害

軽度の血友病患者は、筋肉や関節の出血は通常それほど起こらない。 しかし重度の血友病患者にとっては重大な問題である。

血友病でやっかいな問題は、関節の出血によって発症する関節の破壊や血友病性関節症である。
最もよく起こるのが、肘、膝、足首である。 出血障害を起こす患者の関節での出血は、関節の退化、腫れ、可動部分の低下はもちろん、慢性的な激しい痛みを引き起こす。

関節症で苦しむ人たちのために、変形部の矯正や痛みの緩和には、腱を延ばしたり、関節の代替やその他の治療が行われる。
外科手術を行う際は、外科医だけでなく血液科医、整形外科医や出血障害治療の専門医も必要となる。 加えて、運動療法によっても関節の痛みを改善することが出来る。
最近の研究では、出血による関節障害を防ぐために患者が小さい頃から予防を始めることを提案している。