血友病の治療(皮下出血、筋肉内出血)
3.繰り返す出血への対応

血友病患者が出血を生じると、出血部位の血管の回復が完全になるまで同じ部位に出血を繰り返しやすい。

筋肉内出血の場合、同じ筋肉に出血を繰り返すと安静を強いられ、ますます筋肉の萎縮が進行する。そうすると出血が改善してもその筋肉への加重負担に耐えられなくなって再出血を生じ、さらに筋萎縮が進行して出血を繰り返すという悪循環に陥ることがある。

出血を繰り返して筋肉が萎縮し、関節障害も伴う場合はリハビリ、装具、定期的補充療法を組み合わせて悪循環を絶つことが重要である。装具やサポーターの装着に加えて、底厚のクッションが良くて軽い靴を履くことにより下腿の筋肉や関節への負荷を少なくすることができる。

定期的補充療法(予防投与)について

凝固因子製剤の進歩に伴い、製剤投与による安全性が確認されてきたため積極的な定期的補充療法(予防投与)が推奨されている。予防投与を行う方が出血回数が少なく関節障害などの合併も少ないとの報告もある(引用文献1,2)。

血友病Aの場合は週3回、血友病Bは週2回の投与を行う。1回の投与量は凝固因子レベルが20~50%となるように投与し、常に因子レベルが1%以上になるように維持すれば出血が明らかに減少し、関節障害の合併を防ぎ、頭蓋内出血などの重篤な合併症を予防し、血友病の子供や親が安心してのびのびと生活できると期待されている。
予防投与の投与量や投与方法、効果については今後のRandomized Studyの施行と解析が待たれる。

しかし、乳幼児期に家庭で定期的に予防投与を続けることは技術的に困難な場合が多い。そこで次に紹介するように皮下にカテーテルを埋め込んで簡単に注射ができる方法も登場してきた。

ポート・カテーテルの埋め込み

乳幼児期で静脈注射が困難な時期に予防投与や免疫寛容療法で注射を頻回に行う場合にはポート・カテーテルが有用である。

ポート・カテーテルを胸部の皮下に植え込み、鎖骨下静脈から中心静脈にカテーテルを挿入し、ポートから簡単に製剤を注入できる。
しかし、感染症の合併が予防投与で0~29%、インヒビターの免疫寛容群で頻回に投与を行うと50~83%と多く、今後検討すべき課題である(引用文献3)。

リハビリテーションについて

同じ筋肉や関節に出血を繰り返す場合はリハビリテーション(リハビリ)による筋力トレーニングも有効である(引用文献4)。状態の良いときにリハビリによって筋力を増強することは、関節への負担を少なくすることにもつながる。

リハビリの主体となる運動は主に以下のように分類される。

1) 関節可動域を維持する訓練
何も抵抗をかけずに、ゆっくりと関節を動かすことができる範囲で最大限に動かす
2) 筋力強化訓練
第一段階
等尺性収縮運動:関節を動かさずに、筋肉の収縮(軽く力を入れる)だけを行う
第二段階
自動介助運動:補助を受けながら、関節可動域で自力で関節を動かす
第三段階
自動運動:補助なしで、関節可動域で自力で関節を動かす
第四段階
抵抗運動:関節可動域の無理なく動かせる範囲内で、自力で軽い抵抗にうち勝って関節を動かす

上記の各運動を症状の経過にあわせて行う訳であるが、出血の急性期(初期)には、すぐに運動療法は行わず、まず製剤の補充療法を行い、局所を冷却しながら出血部位の安静・固定を保つことが重要である。

状態が良ければ、急性期を少し脱した段階(出血後2~3日頃)から、等尺性収縮運動(第一段階)を開始する。

出血部位の痛みと腫れが軽快すれば、製剤の補充療法を続けながら自動介助運動(第二段階)を始め、徐々に自動運動(第三段階)に移行し、筋力の維持を図る。
さらに自動運動が無理なく行えるようになれば、軽い抵抗運動(第四段階)を取り入れて筋力を強化する。その際、弾性バンド(チューブ)を使用すると、家庭でも効果的な抵抗運動が可能である。また、水中歩行は関節に負担をかけずに全身の筋力を強化できるので大変有用である。