血友病の治療(皮下出血、筋肉内出血)
1.皮下出血

皮下出血は多くの場合、転んだり打撲によって皮膚の下に生じる表在性の出血で、時間が経てば自然に吸収されるために原則として治療を必要としない。

下腿、前額部、上腕などのあざは通常は治療を必要としないが(写真1,2)、皮下に大きなしこり(皮下血腫)を形成するなど程度がひどい場合は補充療法により早期に吸収させる。
疼痛や腫脹が強く運動にも支障をきたす場合は補充治療を行う。
頸部や眼球の周囲で出血量が多い場合は呼吸困難や眼球圧迫の原因となりうるので早期に製剤を投与する。投与量は症状に応じて凝固因子レベルが10~40%となるように投与する。

写真3は眼球周囲の出血と結膜出血を合併した幼児で補充療法を施行した。
写真4は下腿の外傷に感染を伴い、皮下出血も重度となって入院治療を要した症例で、補充療法と抗生剤投与で軽快した。
写真5は虫歯のために感染と出血が合併して頸部の腫大と疼痛が悪化し補充治療を必要とした。


写真1 前額部の皮下出血

写真2 上腕の皮下出血

写真3 眼球周囲の皮下出血と結膜出血

写真4 下腿の感染と皮下出血

写真5 虫歯による感染を合併した皮下出血

インヒビター症例の皮下出血について

写真6 High Responderインヒビター症例の皮下出血

インヒビターを有する血友病患者の場合、皮下出血も重度となる場合が多く厳重な注意を要する。
特に頸部の皮下出血は気道を圧迫しないように治療することが重要である。

写真6は血友病Bハイ・レスポンダ・インヒビターの患者で、転倒して指骨を骨折し爪がはがれて出血したが、活性型第VII因子製剤の投与により重症化せずに改善した。

血友病患者の注射や採血の場合の注意

血友病患者に対し、通常予防接種やインターフェロンなどの注射は細い針(27G針)で皮下に注射すれば出血することはほとんどない。
採血時も圧迫止血を時間をかけて行えば補充療法は必要としない。

乳幼児の皮下出血について

1歳前後の乳幼児で歩行がまだ上手にできない時期に臀部を強く打って臀部から陰嚢部にかけて皮下出血を生じることが多い(写真7)。
筋肉内出血を伴う場合も多く、見極めが困難な場合もある。不自然な体位をとったり、歩行が不自然な場合は補充療法を要する。
乳幼児などは注射針を抜去するときに圧迫する時間が短いと皮下出血を伴うことがある(写真8)。
腫大がひどくて痛がる場合は補充療法を要する。時間をかけて圧迫すれば補充療法は必要としない。


写真7 臀部から陰嚢部にかけての皮下出血

写真8 翼状針抜去時の皮下出血

皮膚科処置の補充療法

写真9 液体窒素処置による皮下出血

尋常性疣贅などを液体窒素で処置する場合に時々皮下出血を生じる場合がある(写真9)。出血が心配される場合は処置前に予防投与する必要がある。

手術後の抜糸時の補充療法

写真10 液体窒素処置による皮下出血

抜糸時には出血を伴うことがあるので補充療法を必要とする(写真10)。

帽状腱膜下出血

写真11
(1)帽状腱膜下出血(矢印:疾患部)
(2)乳児期の頭蓋内出血による低吸収域

帽状腱膜と頭蓋骨骨膜との間の出血で、強い外傷によって新生児以外にも生じることがある(写真11)。

有毛部全体、前額、上眼瞼におよぶ広範な腫脹を特徴とし、皮下出血とは異なり重症化する場合がある。

我々の経験した3例はいずれも10歳前後で、けんかで髪の毛を強く引っ張られたり、バットが頭に当たったりして帽状腱膜下出血を生じた。
十分な補充療法とともに弾性包帯等で厳重に圧迫しないと血腫がどんどん拡大し、重症化して眼球突出や貧血を伴うことがあり、要注意である。

筋肉内出血